ウールの表示

洗濯に歴史あり・家庭洗濯等取扱方法の表示タグにも歴史あり

今の世の中、科学技術やICT技術は日進月歩ですので、あらゆる分野で次々に新しい製品が生み出されています。

そのため、JIS規格に定められた個々の基準は数年ごとに見直され、検討され、改訂されたり廃止されたりすることで更新され続けています。

JIS規格の一部である「家庭洗濯等取扱方法」の表示基準も同様で、世に連れ時に連れ、表示の仕方は変化してきました。つまり、家庭洗濯等取扱方法の表示、また表示をおこなうタグのあり方にも歴史があるのです。

洗濯そのものにも歴史あり

沢山の洗濯ばさみ

むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがありました。まいにち、おじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました……。

日本人ならたいてい知っている、『桃太郎』の冒頭です(楠山正雄版を引用しています)。

「洗濯」というのは、もともと川でするものだったのです。というよりも、現代でも発展途上国まで含めてみれば、川だけでなく自然の水、池や泉を利用して洗濯をしている人たちはたくさんいます。

川、池、泉の水に洗濯物をひたし、手でもんだり、足で踏んだり、木の枝や棒でたたくという手法もとられます。

こんにちの日本でも、アウトドアライフの一環として自然の水を利用した洗濯のシーンはありえます。そのための製品も市販されています。

場合によっては「煮沸(しゃふつ)」も

沸騰する鍋

自然の水を利用するにしても、火にかけてふっとうさせて衣類を煮沸するという方法も、洗濯の一環として古今東西でおこなわれています。

日本では出産の際に大量のサラシを煮沸消毒して用いることは古来おこなわれています。ヨーロッパでは、ペストやコレラといった細菌による伝染病がたびたび多くの犠牲者を出しています。そのため、煮沸消毒をおこなうための洗濯用の「かまど」が各家庭に見られました。

パスツールやコッホがあらわれるよりも前の時代、誰ひとりとして「細菌」という概念を持っていなかったにもかかわらず、「煮沸すれば衣服を清潔にできる」という発想にたどりついた人間の知恵はすばらしいものです。

日本では「洗濯おけ」と「洗濯板」が定番に

洗濯桶

戦時中くらいまでの日本では、川、池、泉、あるいは運河や井戸からくんだ水を利用して洗濯しました。洗濯おけに水をくみ、凸凹のある板に洗濯物をこすりつけて汚れを落とす方式が主流、定番となります。「灰」が洗剤のように使われることもあったようです。「長屋」の井戸端で女房たちが集って洗濯おけを並べ、井戸端会議の花を咲かせるようすは、ときどき時代劇で描かれます。

洗濯おけと洗濯板は、木材製からプラスティック製になりましたが、今でも市販されており、場合によっては活用されます。生地によっては洗濯機に不向きなものもあるからです。

また、こんにちの「クリーニング店」のはじまりとして、「洗い張り」という職業が生まれたのも江戸時代です。京都では「洗い物屋」、江戸では「洗濁屋(せんだくや)」と呼ばれました。

工業製品としての繊維製品と洗濯

カラフルな糸

世界中、たいていの国では近代工業化は「繊維」からはじまります。イギリスで起きた「産業革命」からしてそうでしたし、日本の明治時代における近代化も富岡製糸場からはじまっています。

工業製品としての繊維製品が大量生産され、大量流通し、品種も多様化するようになりますと、消費者の利益保護の観点から、商品の適切な取り扱い方法を周知する必要性が徐々に生じてきました。

日本では、今でこそJIS規格にもとづく表示方法が確立され、義務づけられていますが、近代化の当初は個々のメーカーまかせだったでしょう。それでも必要性は徐々に高まりましたので、「洗濯等取扱方法の表示」はおこなわれるようになりました。

電気洗濯機は昭和初期に登場

洗濯する女性

1901年9月1日、関東大震災が京浜地区をおそいます。その震災後の復興途上で郊外に洋風の「文化住宅」が建てられます。水道やガスが引かれた台所をそなえ、基本的な電化製品を利用できる住宅でした。

もちろん、ごく一握りの人しか入居できないものでしたが、現代的といっていい生活様式がその頃から見られるようになったのです。

大正時代の1915年には電気アイロンが発売され、昭和に入って1930年に、電気冷蔵庫と電気洗濯機が登場します。大多数の庶民は洗濯おけと洗濯板でしたが、高給取りの人たちは回転する洗濯槽と洗濯物をはさんで脱水するローラーをそなえた洗濯機を使い始めました。

本格的な「家庭洗濯等取扱方法の表示」は高度成長期以降

コインランドリー

戦争が終わり、進駐してきたアメリカ軍が持ち込んだ「QMランドリー」という大規模クリーニング施設を参考に、日本人も現代のそれにつながるクリーニング店を経営するようになりました。独立後の昭和34年(1959年)、政府は環境衛生法を定め、クリーニング店の衛生管理を指導するようになります。

同じ頃、家電メーカーも「家庭用洗濯機」を次々に発売し、一般家庭にも普及するようになりました。化学繊維も広がりを見せ、使いやすい洗剤も手に入りやすくなると、衣料品メーカーも各家庭での洗濯などの取り扱い方法の情報提供に配慮するようになります。

こんにちのJIS規格の元になる「日本工業規格」は1949年に制定・施行されました。これが次第に高度化されていくプロセスで、衣料品の「家庭洗濯等取扱方法の表示」も規格化されました。

こんにちの表示方法の原型確立

洗濯に関する表示

当初おこなわれていた「家庭用品洗濯等取扱い絵表示」では、洗濯機による洗濯ができる製品では洗濯機のマークが描かれ、水温の上限を「30」や「40」といった摂氏温度で示し、水流の強さ、使用する洗剤の種類(「中性」など)といった情報が併記されていました。手洗いによる洗濯だけができる「洗濯機使用不可」の製品には、手洗い容器(洗濯おけ)のマークと「手洗イ」の文字が記されており、水温の上限などが併記されました。洗濯機などの処理ができない場合に「×」を重ねるスタイルも、当初から採られています。

国際規格への整合化に向けて

アイロンに関する表示

1995年1月、世界貿易機関(WTO)で議決された「貿易の技術的障害に関する協定(TBT)」が発効しました。このような国際通商環境の変化を受け、国内規格を国際規格へ整合化させる動きが本格化しています。JIS規格、およびその表示方法を、ISO(国際標準化機構)のものに合わせていく動きです。

ところが、ISOには、日本ではすでに当たり前になっていた「家庭洗濯方法」の規格・表示方法に当たるものが存在しなかったのです。そのため、日本の提案でISOの絵表示の規格が改正され、その改正内容を受けて、日本ではそれまでの「JIS L0217:1995」に代えてISOに対応した「JIS L0001:2014」が制定されました。この新規格にもとづき、2016年12月から表示方法は改定され、表示記号がそれまでの22種類から41種類へと大幅に拡充されています。

2016年からの新方式では、タンブラー乾燥や酸素系漂白剤、干し方などの表示記号があらたに規定されており、洗濯の際の中性洗剤の使用、アイロンがけの当て布の記載はなくなっています。洗濯機の使用ができることを示す洗濯機の記号が削除され、洗濯おけ(たらい)の記号に統一されました。「手洗い」は洗濯おけに手を突っ込んでいるように見える絵で表示します。

このようにかなり大きく変わったところがありますので、洗濯方法をあらわす織りネームタグを製作する際には注意が必要です。消費者庁のホームページなどで確認しましょう。